file No80 
菊次郎の夏
1999.6.13
監督,脚本,編集:北野武
音楽:久石譲
出演:北野武,関口雄介,岸本加世子,グレート義太夫,井手らっきょ

北野映画の最新作です。日本公開前のカンヌ映画祭では,観客と批評家から絶大な評価を受けたと報じられ,これはもしかしてと思っていましたが,クローネンバーグの策略により惜しくもグランプリを逃してしまいました。
さぞかしスゴイ映画なのかと思っていましたが,意外でしたね。

前作までにある強烈なバイオレンス(なくて当たり前なのだが今回は)が無く,いつもの武節が感じられない。簡単に言うと「スタンダード」,「まとも」なのだ。

ストーリーは使い古された「母をたずねて・・」なんてもので,これまた「まとも」。作品の性格上,あのクセのある編集スタイルは影を潜めて,今回は過去の作品に比べこれまた「まとも」で,セリフにスリム感がない。よくしゃべるのだ。お遊びもフンダンにある。

いつまでも,過去の作品と比較してもしょうがないんで,今回の話をしよう。

結果的にどうも「媚びている」ような気がする。なにも興行に関する事じゃなく,観客にでもない。世界と言う大舞台に媚びている。それは,あたかもベネチアの授賞式で見せた武の行動(恥ずかしいがゆえの)に似ている。

逆に言えば,この作品の菊次郎が一番武らしいのかもしれない。ベネチアの時もそうであったように,武はこの作品の中で照れ笑いついでに”舌”を出す。この感覚がどうも気に入らない。「HANA-BI」の時も確かそうであった。これは,最近のTV出演でも見られることだ。

グレート義太夫,井手らっきょらの馬鹿さ加減もTVの枠からはみ出してはいない。

ストーリーが単純で,結末の分かったようなお話を2時間もの劇場作品に仕上げ,飽きさせないのは流石なのだが,TVの延長線上にあるようで釈然としない。見飽きてるのだ。

だから,日本では多分ウケない。既に武も日本の観客は相手にしてないようで,お決まりお約束ごとを連発する。そして,このお笑いは殆どの場合(過去の作品も含めて)ジャンプカットで編集されている。暴力シーンの場合,これはかなり有効で衝撃の強度は倍増し観るものを圧倒するが,ことお笑いとなると結局不条理漫画のそれと同じであり,よほどのトッピサが無い限り,見飽きた感じがする。

でも,不条理漫画というカテゴリが成熟していない国外(ことにヨーロッパ)ではウケるのだろう。これは,もはや確信犯的な戦略である。なにか,留学生を自宅に招く際に,日常にはびこる非日本的な部分を隠し,これが”日本”ですって言っているオヤジみたいである。

決して飾らないし,悪意なウソもないく,ケレンもなく素直で純粋な映画に仕上がってはいるが,どうも「媚びている」ようで仕方ない。

素直で純粋。今のご時勢に失われた感覚を,この作品が伝えているのは確かだろう。
それを,媚びてると言ってしまう自分がチョット情けない気もするが・・

今後のハリウッドでの作品には,おもいっきり期待したい。

 

 
shima-s@fka.att.ne.jp
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