file No11
青いパパイヤの香り」
1997.10.24
監督、脚本:トラン・アン・ユン
出演:トラン・ヌー・イェン・ケー,ルー・マン・サン,グエン・アン・ホア,トルオン・チー・ロック

静かな作品である。ベトナムの映画であることに衝撃を覚えた。非常に美しい作品である。ベトナムと言えば「戦争」物しか浮かばなかった(全く観たことがなかった)が、イメージとは程遠い。そういえば、ホーチミンなどは美しい街らしいので納得ができる面もある。監督はベトナム出身ではあるがフランスで映画の勉強をしたらしい。31歳の監督である。大変な力量で観る者を唸らせる。

まず、驚かされるのはオーフニング。長い「ワンシーンワンカット撮影」の計算し尽くされた横移動による描写。
オープニングだけではない。
全てにおいて美術、照明、構図など鳥肌ものである。ベトナム建築であろう屋内(?)撮影においても、その横移動による撮影が効果的であり、非常に適している。手法は違うが、日本建築を生かした小津安二郎や、黒沢明が持ち込んだ手法に通じるものが感じられる。

また、セリフが少ないのも特徴的だが、特に説明的な描写が一切排除されている。そして、感情の起伏も注意して押さえられ静かな印象を受ける。まさに小津風である。
唯一、奉公先の「旦那の過去」について先輩使用人の口から説明されるが、それも眠りに就く前の月明かりの中で静かに語られるのみである。

旦那の死も、その母親の死も感情の爆発はほとんど起きない。ただ、父親の死を知り自分の部屋に飛び込んだ息子と、それを宥めに行く母親の描写においては、その行動の過程が「省略」される事により観る者へ強烈に伝わる。このジャンプカット的手法は後の少女(女性)の湯浴びのシーンでも使用される。この作品の中で「動」を感じさせるシーンである。  

後半、建築様式の変化に合わせて撮影方法やイメージが変わる。今まで、どことなく日本映画的感じがしていたのが、今度はどことなくフランス映画的感じに変わるのである。前半のあまりの面白さのために、後半がかすんでしまったような感じがするのだが、それでも十分すぎるくらい観ていて心地よい作りになっている。

強いて言うのであれば、全編を通しての「生き物」を使った「官能的」「性的」表現は、ちょっとくどすぎる気もする。また、一部には説明を排除して伝えようとしたシーン(十分に分かる)において、説明的カットを入れて補おうとしている(そう思われる)シーンがあったりして、監督自身の迷いを感じさせる。

しかし、すばらしい作品には間違いはない。今後注目すべき監督である。
 

shima-s@fka.att.ne.jp
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