file No21
ミラーズ・クロッシング 1997.11.30 監督、脚本:ジュエル・コーエン 製作、脚本:イーサン・コーエン 出演:ガブリエル・バーン,ジョン・タートロ,マルシア・ゲイ・ハーデン,スティーブン・ブシェミ やはりコーエン兄弟の作品である。その独特の世界は「マフィア物」でも一線を画している。タイトルバックの映像。帽子が風に舞うあのシーンに重厚な音楽が流れる。ここで既に観る者を捕まえている。見事。 この作品でも「追いつめられた人間の滑稽さ」がテーマとしてある。浮気が発覚しないように四方に「でまかせ」を言いまわり、次第に窮地に陥っていく男。絶えず怒りに駆られているマフィアのボス。裏切り者のホモ。確かに「殺るか殺られるか」の世界で生きているが、みんな挙動がどこか滑稽である。 ここが、コーエン兄弟の独特の視点である。クールに決めて表面上「何もかもお見通し」を気取っている主人公が、裏切り物のホモに反撃を食らって、ぶざまにこけるカットなど誰が撮るのか。また、自分の裏切り行為がバレそうになる「ミラーの十字路」でたまらずゲロするあたり、人間臭いといえばそうなのだが、やはり滑稽である。 なぜ、滑稽なのか。確かに登場人物の挙動は滑稽な部分もあるが、それは非常に日常的(映画的ではないかもしれない)でありリアルである。そのリアルさが滑稽に見え作品の中で浮彫りになるのは、コーエン兄弟のスタイリシュな映像構成によるものだろう。 「これでもか」と言わんばかりの「カッコイイ」映像で構成された作品の中において、そのリアルさは実際浮いている。しかしながら絶妙な感覚でリアルさが存在しているため、決して物語が破綻せず「滑稽さ」として定着するのだ。 ただ、この作品はストーリーが複雑でそのうえ「省略」されているため、一度観ただけでは理解できない(そう思うのは私だけ?)。恐るおそるコーエン兄弟の世界に踏み入った観客を突き放しているような感じがする。
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