file No15
野良犬 1997.11.01 1949年製作 監督:黒澤明 脚本:黒澤明,菊島隆三 出演:三船敏郎,志村喬,淡路恵子,千石規子 暑い作品である。なにしろ暑い。この48年前の作品には既に現在の映画にあるものが全てある。 まったく驚きである。まさに教科書のような作品だ。この作品から派生した作品がどのくらいあるのだろうか。 話は単純明解。無駄な枝葉はない。オープニングはナレーションが入り説明的であるが、これは時代のせいであろう。描写だけで十分すぎるくらい理解できる。
徹底的に描写されたこの作品は観るものを引き付ける。「息を切らす野良犬」「路面に食い込むバスのタイヤ」「満員で窮屈な車内」「子供の泣き声」「厚化粧の女」十分に暑い。また、三船演じる若い刑事が「自分の拳銃」を探し求めて、街を歩きまわる長いシーンなどは一切セリフはない。荒廃した東京の街。うだるような暑さ。刑事の目。歩を進める足。流行歌。路上生活者。流れる汗。執念と焦り、そして疲労が見事に描写されストレートに伝わる。 また、映像のテンポも力強い。容疑者をかばう女の部屋でのシーンにからめ、聞き込みに歩き回るカットを織り交ぜられる一連のくだりは、犯人に迫っていく緊張感にあふれている。そして夕立、電話を使ったサスペンス。映画的興奮が最高潮に達する。この間、犯人の表情は捉えられず、足元だけが写される。また、撃たれた刑事の容体もそのものを捉えることなく一気に病院のシーンへと繋がれ、ラスト近くまで伏せられる。まったく心憎い演出である。 ここで、病院での重苦しいシーンと苦悩する若い刑事の描写が入り、展開が物語は一旦「動」から「静」へ変化する。そしてまた突き動かされるように「駅の待ち合い室」のシーンへと繋がる。用意されるのはスピルバーグの傑作「激突」で模倣されたほど強烈で斬新なシーンである。
物語の構成。構図。編集。カメラワーク。今更ながら、黒澤映画のすごさを見せ付けられた作品であった。
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